ナレッジknowledge

2016/12/7

【連載】高速ユーザーテスト実践講座 第11回「反復設計」

第11回「反復設計」

 
どんなに優れた解決案であっても、それは“仮説”に過ぎません。解決案は必ず実装またはプロトタイピングして、改めてテストで“検証”します。このような「試作とテストの繰り返し」こそが利用品質の飛躍的な向上をもたらすのです。
 

試作とテストの繰り返し

 
5ユーザーテストの提唱者であるヤコブ・ニールセンも“繰り返し”テストすることを推奨しています。例えば、15人のテストをする予算があるのならば、15人を対象にしたテストを1回やるよりも、5人ずつ3回のテストを行うのです。
 
一度に15人をテストするということは、開発チームにとってチャンスは一度しかないということです。試行錯誤する余地はありません。このテストを通過しないと予定通りに製品をリリースすることができなくなるかもしれないという状態で、15人のユーザーから次々と“ダメ出し”されるとチームは途方に暮れてしまいます。
 
繰り返しテストを行う場合、1回目のテストで大きな衝撃を受けることに変わりはありませんが、チームにはチャンスがまだ2回残っています。1回目のテスト結果を踏まえ、開発チームはユーザーが誤解した原因を分析して新たなデザインを発想します。2回目のテストでは解決案のいくつかは上手く機能しますが、まだユーザーを完全に理解できていないことを痛感する場面も観察されます。これら2回の経験を踏まえてチームは3回目のデザインに挑戦します。その結果、3回目のテストではほとんどの問題点が解決できていることが確認できます。
 
小規模なテストを繰り返し実施するということは、チームは継続的にユーザーと対話を行っているのと同じです。問題点の改善を図るだけでは一方通行のコミュニケーションに終わり、作り手の勝手な思い込みによるデザインを排除できません。解決案をもう一度テストすることで、自分たちのアイデアの何が上手くいって何が外れたのかが明らかになり、より深くユーザーを理解できるようになるのです。

 
また、テストを繰り返している間にチームの腕前も上達します。最初は解決案の“打率”が5割程度のチームであっても、3回目のテストが終わる頃にはほとんどの問題点を解決できるようになります。
 

RITEメソッド

 
このような小規模なテストによる反復設計は、当時(1990年代前半)とすれば画期的なアイデアでした。しかし、現代のソフトウェア開発の現場では、それでも“重い”のです。
 
5ユーザーテストでUIを改善するプロセスは以下のようになります。
 

1.5人テストする。
2.データを分析する。
3.発見された問題点に対する解決案を考案する。
4.UIを修正する。
5.5人テストする(解決案の検証および新たな問題発見)。
6.問題解決と問題発見を繰り返す。

 

意外にも“5人”がボトルネックになります。なぜならば、実際にはもっと少ない人数を観察した時点で問題点が明らかになる場合が少なくないからです。多くの場合“3人”観察すれば問題点のおおよその見当はつきます。ところが、ニールセンの手法に実直に従えば、問題発見の精度を保証するために、5人分のデータが集まるまで次の行動に移れません。
 

そこで、反復をさらに高速化した手法が現れました。それが“RITE”― Rapid Iterative Testing and Evaluation: 高速反復テスト評価 ―です。この手法は米マイクロソフトのゲーム開発部門で1990年代後半に確立しました。彼らは「エイジ・オブ・エンパイアⅡ」(1999年発売)のチュートリアルの開発にこの手法を活用しました。
 

その最大の特徴はテストとUI変更の“高速反復”です。RITEメソッドでは、たとえ1人の観察結果であっても、問題点が明白になった時点で改善に取りかかるのです。そして、次のユーザーには修正した新しいUIを提示してテストを続けます。これを繰り返すと、十数名のテストが終わる頃には、ユーザビリティ問題は全て発見・解決されているのです。
 

従来、ヤコブ・ニールセン等のユーザビリティの専門家は「何人のユーザーをテストすれば何パーセントの問題が発見できるのか」という“精度”の議論を延々と繰り返してきました。しかし、どんなに正確に問題を発見できたとしても、それを修正できなければ意味はありません。
 
そこで、RITE メソッドでは発想を転換しました。つまり「問題発見の精度よりも問題解決を優先」したのです。そして、小さなテストを繰り返し行い、問題が見つかるたびにそれを修正していくことにしたのです。
 

そもそも、私たちの仕事は「立派なテスト」を実施することではありません。私たちの本当の仕事は「高品質な製品」を開発することであるはずです。ユーザーテストは、そのための手段の1つに過ぎません。ですから、どんなに簡便なテストであったとしても、製品の利用品質向上に貢献すれば“それで十分”なのです。
 

81vCozoDHzL._UX250_
【著者紹介】
樽本 徹也(たるもと てつや)
利用品質ラボ代表。ユーザビリティ工学が専門で特にユーザ調査とユーザビリティ評価の実務経験が豊富。著書は『アジャイル・ユーザビリティ 』 『ユーザビリティエンジニアリング(第2版)』(いずれもオーム社)など。
認定人間中心設計専門家、認定スクラムプロダクトオーナー。産業技術大学院大学「人間中心デザイン」講師。
>>第1回「ユーザーテストとは」
>>第2回「ユーザーテストの大原則」 
>>第3回「ユーザーテストの基本理論」 
>>第4回「ユーザーテストの実施手順」 
>>第5回「リクルートのコツ」 
>>第6回「タスク設計法」 
>>第7回「観察テクニック」 
>>第8回「データ分析法(その1)」 
>>第9回「データ分析法(その2)」 
>>第10回「再設計」 

 

************大好評!ダウンロード資料公開中************

▼「高速ユーザーテスト実践ワークショップ」レポート▼

pic_download02

お問い合わせ

ユーザーテストのお問合せは下記からお願いします

電話でのお問い合わせ/053-545-5105(月〜金/9:00〜18:00)