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2016/9/7

【連載】高速ユーザーテスト実践講座 第5回「リクルートのコツ」

・第5回「リクルートのコツ」

ユーザーテストの第一ステップはリクルートです。ただ、募集を始める前に、まず「誰」に来てもらいたいのかを決めないといけません。「代表的なユーザー」に来てもらうのが原則ですが、それを具体的な条件(「リクルート条件」)として記述します。

代表的なユーザー

「この製品の代表的なユーザーとは?」と問われると多くの開発チームが混乱に陥ります。会社のロッカーの奥から過去に行ったマーケティング調査の結果を引っ張り出してきて「男女は1:1 で、20 代・30代・40 代は5:3:2、東日本と西日本が3:2 で……」などという条件をこじつけてしまうかもしれません。当然ながらこれは全く役に立ちません。私たちは市場調査をするわけではありません。
 

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「もっと具体的なユーザー像を!」と改めて問われると、今度は企画段階で作成した「ペルソナ」を思い出すかもしれません。確かにペルソナシートには「ケイスケ、埼玉県在住、22歳」や「ミチコ、京都府在住、33歳」といったユーザー像が詳細に定義されていますが、これはあくまで“仮想”のデータです。ペルソナを盲信して、被験者を埼玉県在住の22 歳男性と京都府在住の33歳女性に限定したとすれば、それは全くの見当違いです。
 

ユーザーテストの被験者として最も重要な条件とは「その製品を使ってタスクを実行できる(と想定できる)」ことです。
 

そのためには、それなりの“資格”が必要です。例えば、運転免許を持っていない人に新型のスポーツカーを試乗してもらっても車はまともに前に進みませんし、中高校生を集めてカクテルの試飲会を開くわけにはいかないでしょう。
 

さらに妥当なレベルの経験も必要です。ユーザーテストとは、あくまで「○○するとすれば……」という仮定の状況で“演技”をしてもらうに過ぎませんが、たとえ演技であっても、それなりの知識や経験がなければ、まともに演じることはできません。もし全く資格や経験を問わないとすれば、男性ユーザーを使って女性下着の販売サイトのテストができるはずですが、そんなテストを設計する人はいないでしょう。
 

リクルート条件は、通常、30字前後の「一行ステートメント」に簡潔にまとめることができます。参考までにいくつか例を挙げておきましょう。
 

・中古車を購入したいと考えている20代の男女【中古車情報サイト】
・結婚の予定がある、都心で働いている30代前半くらいの女性【結婚情報サービス】
・中学生くらいまでの子供を持つ、郊外の戸建てに住む専業主婦【防犯サービス】
・軽~ミドルクラス車に乗っている、郊外に住む中高年の男女【カーナビ】
・PCを使ってみたいと思っている、ワープロ専用機が使える高齢の男女【パソコン】
 

初心者お断り

なるべくITスキルの低い人をリクルートした方が、より多くの問題点を発見できると考えるかもしれませんが、それは全くの間違いです。
 

もちろん、ウェブサイトやソフトウェアをテストする際の被験者として、システムエンジニアやパソコン・インストラクターなどのコンピューターのプロは不適切です。だからといって、マウスやキーボードがまともに操作できない“超”初心者をリクルートしてしまうと、それはテストではなくパソコン教室になってしまいます。
 

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そこまで極端でなくても、初心者は当然ながら操作は未熟です。最初から“できそうにない”ユーザーがタスクを失敗したところで、設計者は多少の哀れみをユーザーに感じるだけで、自分達に責任を感じません。ところが、“当然できるはず”のユーザーが失敗したとすれば、設計者に言い訳の余地はありません。設計者は大きな衝撃を受けて、製品のユーザーインタフェースを修正することを決断します。
 

ユーザーテストとは、ユーザーが失敗する様子を観察するのが目的ではありません。ユーザーインタフェースの設計ミスを発見するのが目的です。ところが、初心者は無駄な失敗を繰り返し、上級者は設計ミスを乗り越えてしまいます。効果的なユーザーテストを行うためには、普通のスキルを持ったユーザーをリクルートすべきです。(※なお、初心者向けのユーザーインタフェースを設計しているのであれば、初心者の度合いを具体的に定義します。)
 

ひとり余分に

テスト当日、被検者が会場に現れないことがあります。私の経験では完全なドタキャンの確率は2~3%だと思いますが、欠席が明らかになってから慌てても後の祭りです。たとえ事前に欠席の連絡があったとしても、前日や当日のキャンセルでは追加リクルートは間に合いません。また、様々な事情で遅刻する被検者も少なくありません。
 

このように、被検者に関して何らかのトラブルが発生する確率は5~10%くらいあるという覚悟をしておいた方が無難です。
(テスト中に被検者が体調を崩す場合もあります。)
 

そこで、あらかじめ“リザーブ”を確保しておくことをお薦めします。つまり、1人余分にリクルートするのです。5人のテストを行いたいのならば6人リクルートします。男性5人と女性5人の合計10人のテストの場合は、男女6人ずつ合計12人リクルートします。もちろん費用は余分にかかりますが、トラブルが起きてから善後策で駆け回ることを考えれば、十分に価値のある出費です。
 

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【著者紹介】
樽本 徹也(たるもと てつや)
利用品質ラボ代表。ユーザビリティ工学が専門で特にユーザ調査とユーザビリティ評価の実務経験が豊富。著書は『アジャイル・ユーザビリティ 』 『ユーザビリティエンジニアリング(第2版)』(いずれもオーム社)など。
認定人間中心設計専門家、認定スクラムプロダクトオーナー。産業技術大学院大学「人間中心デザイン」講師。

>>第1回「ユーザーテストとは」
>>第2回「ユーザーテストの大原則」 
>>第3回「ユーザーテストの基本理論」 
>>第4回「ユーザーテストの実施手順」 
 

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▼「高速ユーザーテスト実践ワークショップ」レポート▼

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